付箋に書かれたパスワード
交代勤務の作業者が 1 つのアカウントを共有して工場の Web アプリにログインし、そのパスワードを書いた付箋がモニターに貼られていることもあります。設定が変わったり不良が流出したりしたとき、その時間に誰が操作していたかを示せません。
パイロット参加企業を募集中(日本・タイ)
作業者は共有パスワードを使わず、自分の FIDO2 セキュリティキーで工場の Web アプリにログインします。AI が不良を検出したときは、作業者がキーに触れ、キーがその判定に署名します。品質保証部門や監査人は、どのキーが署名したかと、署名の後に記録が書き換えられていないことを確かめられます。
キー用のドライバーは要りません。キーは FIDO 標準の HID デバイスとして接続され、USB メモリとしては認識されません。キーボードとしても認識されないため、PC に文字を入力することはありません。
課題
生産ラインでは、交代勤務の作業者が 1 台の PC を共有するため、オフィス向けのセキュリティ製品が前提にしている「1 人 1 台の PC と 1 人 1 アカウント」が成り立ちません。
交代勤務の作業者が 1 つのアカウントを共有して工場の Web アプリにログインし、そのパスワードを書いた付箋がモニターに貼られていることもあります。設定が変わったり不良が流出したりしたとき、その時間に誰が操作していたかを示せません。
検査カメラの判定が署名なしでファイルやデータベースに書き込まれていると、アクセスできる人は後から NG を OK に書き換えられます。書き換えた跡がログに残らない構成もあります。
YubiKey 5 NFC は、Yubico の米国公式ストアで 1 本 58 ドルです。交代勤務の作業者 100 人に 1 本ずつ配ると、5,800 ドルかかります。
YubiKey 5 NFC の価格:Yubico 米国公式ストアの表示価格、2026 年 10 月時点。
仕組み
エッジエージェントは、署名付きの記録を Cloudflare Tunnel 経由で外向きに送るため、工場側で受信用のポートを開ける必要はありません。管理者の操作はすべて、オープンソースの認証基盤 authentik で認証されてから管理サーバーに届きます。
01
PhysKey は Nordic nRF52840 ドングルで動き、ファームウェアは Google のオープンソース OpenSK をもとにしています。基板単体は Digi-Key で 10 ドル未満です。ケースと初期設定を含めると約 15 ドルになります。Seeed XIAO nRF52840 にも対応する予定です。
02
パイロットでは、管理者が Chrome または Edge からキーを登録し、社員番号に紐づけます。キーは USB の HID デバイスとして接続され、USB メモリとしては認識されません。そのため、USB メモリだけを使用禁止にしている工場でも使えます。判定に署名する工程の PC には、エッジエージェントを入れます。
03
AI が不良を検出すると、作業者がキーに触れ、キーが時刻、画像のハッシュ、判定結果に署名します。秘密鍵はドングルの中にあり、PC やサーバーには送られません。
署名の対象
記録には、時刻、送信元のカメラ名、判定結果、画像の SHA-256 ハッシュが入ります。画像そのものは工場の外に出ません。管理サーバーは、登録済みのキーの公開鍵で署名を検証し、署名カウンターで同じ署名の使い回しを拒否します。そのうえで、各記録を同じキーの直前の記録とハッシュでつなぎ、ハッシュチェーンにします。
後から記録を書き換えると、署名の検証が通らなくなります。途中の記録を削除すると、ハッシュチェーンが切れます。最新の記録を削除した場合や、途中の記録を削除したうえでハッシュチェーンを計算し直した場合は、ハッシュチェーンだけでは分かりません。監査人がチェーン末尾の値を控えておけば、後でその値と照合して、控えた時点までの記録が削除されていないかを確かめられます。
産業セキュリティ規格
下の表に、各要件のうち PhysKey が受け持つ部分と今後の予定を示します。IEC 62443‑3‑3 の要件は、PhysKey を組み込んだお客様のシステム全体で満たすものです。PhysKey は、部品向けの IEC 62443‑4‑2 を含め、認証を取得した製品ではありません。
| SR 1.1 | 人の識別と認証 | 作業者は自分のキーを使い、authentik 経由で工場の Web アプリにログインするため、アカウントを共有する必要がなくなります。 |
|---|---|---|
| SR 1.2 | ソフトウェアプロセスとデバイスの識別と認証 | (今後の予定)キーと装置を紐づけます。現在は、エッジエージェントが送信元のカメラや産業用 PC の名前を署名の対象に入れるため、署名した後で名前を書き換えると署名の検証が通らなくなります。ただし、装置そのものは認証していません。 |
| SR 1.5 | 認証器の管理 | 管理者は管理サーバーで、キーの登録、社員番号との紐づけ、失効を行います。 |
| SR 2.8 | 監査対象イベント | AI が不良と判定した検査結果を、署名付きの記録として残します。 |
| SR 3.9 | 監査情報の保護 | 記録の書き換えは、署名の検証で分かります。記録の削除は、キーごとのハッシュチェーンの切れ目で分かります。最新の記録の削除やチェーンの再計算は、監査人が控えておいたチェーン末尾の値と照合すれば、控えた時点までの記録について確かめられます。 |
活用例
日本
画像のハッシュを含めて署名した NG 判定の記録があれば、品質保証部門は、その記録が後から書き換えられていないことを納入先(完成車メーカーなど)の監査で示せます。
タイ
東部経済回廊(EEC)の電子部品や自動車部品の工場では、新しい作業者が頻繁に入ります。1 人 1 本、約 15 ドルのキーを配れば、工場の Web アプリに共有パスワードでログインする運用をやめられます。紛失したキーは、管理者が管理サーバーで失効させられます。
グローバル
ロボットや AGV が危険を伴う工程に進むときに、人がキーに触れて承認し、その承認を署名付きの記録として残せるようにする予定です。
想定する脅威
署名で分かるのは、どのキーが判定を承認したかと、その後に記録が書き換えられていないことです。判定そのものが正しいことは示しません。nRF52840 にはセキュアエレメントがありません。そのため、基板を手に入れた攻撃者は、公開されている故障注入攻撃(CVE-2020-27211)で、秘密鍵を含むフラッシュメモリの内容を読み出せます。
PhysKey は、キーが盗まれて分解され、秘密鍵が読み出される場合も想定して設計しています。キーが複製された後に元のキーと複製の両方で署名を続けると、いずれどちらかの記録の署名カウンターが、管理サーバーに保存されている前回の値を超えなくなります。管理サーバーはその記録を、複製の疑いがあるものとして拒否します。失効したキーの署名も、管理サーバーがすべて拒否します。キーは社員番号 1 つに紐づけるため、盗まれたキーで署名できるのはその社員番号の名義だけで、管理者が失効させるまでの間に限られます。耐タンパ性の高いチップが必要な現場では、管理者が許可した FIDO2 キー(YubiKey など)を同じ管理サーバーに登録して使えます。
パイロットプログラム
日本とタイで、最初のパイロットを一緒に進めていただける工場を探しています。ラインの状況を教えていただければ、メールでご連絡します。